隠れ御曹司の溺愛に身も心も包まれて
 全てを思い出した私は岩本君の顔をじっと見つめる。
「思い出してくれたようですね」
「……まさかあの時の少年だったなんて」
「あの後も会いに行きたかったんですけど、中学受験が控えていて自由に外出することができなかったんです」
「そうだったの……」
「受験に合格して会いに行ったら相野さんはアルバイトを辞めてしまっていました。連絡先を聞いていたらよかったなと後悔していて」
 岩本君に熱い眼差しを向けられた。
「僕の初恋だったんです。しっかりと話を聞いてくれて、そして悩みを解決しようと寄り添ってくれる素敵な女性だなと思いました」
 自分に対しての言葉だと理解すると急に耳が熱くなる。
「その後、僕もそれなりに恋愛をしましたけど、やっぱり相野さんのことが忘れられなかったんですよ。そうしたら会社にいらっしゃったんで驚きました。大人に成長した相野さんはもっと素敵な人になっていて、できることなら自分の恋人になってほしいと願っていたんです」
 愛の告白に私の心臓がドキドキと激しく鼓動を打ち始めた。
 こんなにまっすぐに想ってくれているなんてありがたくて、言葉にならなかった。
 でも、岩本君が幼い頃にしていた発言が気になる。
『僕のお父さんはデザインを手がけている会社の社長なんだ』と間違いなく言っていた。
……ということは岩本君は御曹司ということ? たしかに社長の名は岩本だ。
「岩本君って社長の息子さんだったのね」
「はい。僕が会社の跡取りだということを伝えてしまったら、いろいろな人にプレッシャーをあたえてしまうとのことで秘密にしていたんです。まずは身分を隠して新入社員として入社し勉強してこいと父に言われました」
「そうだったんだ」
 急に恐れ多くなって居心地が悪くなる。
 間違いなく、私は岩本君に対して恋心を抱き始めていた。
 大切にしてくれて、いつも味方になってくれて、美味しい料理を作ってくれて、とびきりの笑顔をくれる。心が奪われてしまうのは、仕方がないことなのかも。
「僕は相野真歩さんことが好きです。アメリカに行って成長して帰ってきたら結婚前提にお付き合いしてもらえませんか?」
 まさかこんなタイミングで告白されるなんて思ってもいなかった。
 自分も素敵だと思っている人からの言葉で嬉しいが、身分差とか年の差とか考えるとリスクが多すぎる。バッドエンドの結末しか見えない。
「答えはすぐにとは言いません。この問題が片付いた後に返事を聞かせてください」
「……はい」
 真剣な眼差しだったので私は素直に頷いてしまった。
「僕がアメリカに行っても、もしよければここで住んでいてもいいですよ」
「まさかそんなわけにいかない。これだけお世話になったし、きっと家も見つかるから大丈夫」
「大丈夫じゃありません。お願いですから心配させないでください」
「そうは言っても、家主がいないのにここにいるわけにはいかないの」
「まぁ……そうですね」
 少しだけ強い口調で言うと岩本君は残念そうにする。
「いろいろと真剣に励ましてくれてありがとう。やる気が出てきた。盗まれたアイディアのもので提出することは厳しいと思うけど、もう一つ考えていたデザイン案があるから頑張って作業してみる」
「応援してます」
 見送られて私は部屋にこもった。
『もっと自分を見てとアピールしてみてもいいと思いますよ。LOOK AT MEですね』
 岩本君が言っていた言葉を思い出す。
 商品が自分らしく、アピールする。他の商品のように奇抜な色を使ってとか、なんとか目立とうとしなくても、自分らしさを表現していくことができれば必ず人には伝わる。
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