隠れ御曹司の溺愛に身も心も包まれて

 それでも気持ちを切り替えて仕事に励んでいると、社長室に呼び出しされた。
 一体何が起きてしまったのかと不安になりながら訪れると、そこには岩本君の姿もある。
 私と岩本君は並んで座り目の前に社長が腰をかけた。岩本君とそっくりで年齢を重ねるとこういう風になるのだろうと想像できる。ダンディで素敵な社長だ。
 社長賞をもらったこともあり、何度か話をしたこともあるが、こうして呼び出しされたことはない。
「相野さん、君は優秀な社員だということはわかっているんだが……」
 含みを持たせた言い方だ。
「うちの息子に手を出しているそうだな」
「そ、そんなことありません」
「家に転がり込んでいるという話を聞いた」
「ですから先ほどから説明している通りで」
 岩本君が必死で弁解しているが、社長は私に対しては厳しい視線を向けていた。
「まだ息子は若いんだ。これからの将来だってある。たぶらかさないでくれ」
「私はそんなこと」
「父さん。今の僕があるのは相野さんのおかげなんだ。そうでなければこの会社を継ごうと思っていなかったんだから。相野さんは僕のことをどう思っているかわからないけれど、僕は彼女しかいないと思っている」
 自分の父親の前でそんなにはっきり言う人を見たことがなかったので私は言葉を失ってしまった。
 いつもどちらかというと冷静なのに、今はかなり必死で話をしている。それだけ私のことを思っていてくれるという証拠なのだ。
「社長のおっしゃる通り、年上の私が家にいると知られたら心配で仕方がないと思いますが、健全なのでご安心ください。家も見つかっているので今週末にはに引っ越しするのでご安心ください」
 私が言うと社長は顎を擦りながら何か考えているようだ。
「圭介、お前も将来があるんだからしっかりと考えろ」
「……」
 岩本君は悔しそうに黙り込んでしまった。

 その日の夜家に戻ると、岩本君はすごく落ち込んでいるようだった。
「ごめんなさい。父が失礼なことを言って」
「親として心配するのは当たり前のことだと思うよ。私も頼ってしまって本当にごめんなさい」
「相野さん。僕、必ず立派な男になって認めさせますから。ですからどうか待っていてください」
 なぜかわからないけれど愛しい気持ちが胸の中をいっぱいに満たしていく。元彼には感じなかった感情で、これは母性なのかとも思ったが、もっと大きくて優しくてキュンキュンして、そんな不思議な感情だった。
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