隠れ御曹司の溺愛に身も心も包まれて
その日の夜。引越し先が決まり荷造りをしていると岩本君が帰宅した。
「裏で動いてくれていたんだね。本当にありがとう」
「いえ。それで相野さんがコンペ用に最初に考えていた案を何とか使ってもらえないかとお願いしているのですが……」
私は首を横に振る。
「あのことがあったおかげで、コンペに出せた作品がさらに洗練されたものになったと思うの。辛い経験だったけど、今はこれでよかったなと思っている」
彼は優しそうな表情を浮かべて頷いた。
「そう言ってくれるなら安心しました。僕がアメリカに行ってからコンペの結果が出るのですね」
そうなのだ。どんな結果になったとしても受け止めるつもりでいたけれど、できればそばで見守ってもらいたかった。
「本当に引っ越ししてしまうんですね」
「無事に家を見つけることができたから、今までお世話になって本当にありがとうございました」
心から寂しいと言った目をする岩本君が急に後ろから抱きしめてきた。
「ちょっと……」
「嫌ですか?」
「……ううん。でも、年の差もあるしふさわしい人がいるんじゃないかなと思って」
「僕がふさわしいと思ったのは真歩さんですよ」
「ありがとう」
岩本君が私の目の前に回ってきて、ずっと瞳を見つめてくる。
「もし辛いなら一緒にアメリカに行きませんか?」
「辛いけれど、必ずわかってくれる人がいる。私は自分の作り出したアイディアたちに様々な色を込めたの。『私を見て』って。もう少し頑張ってこの世界で勝負をしていきたい」
岩本君が深く頷いた。
「その言葉を聞いて安心しました。僕も半年アメリカで頑張ってきます。戻ってきたら、その時はプロポーズさせてもらおうと思います」
まっすぐな彼の言葉が矢のように胸に突き刺さる。
彼の自分を見てほしいというアピールがものすごく強いかもしれない。
「わかった。私も頑張ってるから」
「ええ」
自分の会社の御曹司との恋愛というのは、かなりハードルが高いかもしれないけれど、御曹司だから好きになったわけではなく、好きになった人がたまたま御曹司だった。
様々な困難はあると思うけど乗り越えていきたい。
私と岩本君はゆっくりと顔を近づけてキスをした。