隠れ御曹司の溺愛に身も心も包まれて
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九月下旬に修一郎は福岡支店の営業職として転勤することになったと発表された。事実上の左遷である。
デザイン部から営業職に変わる人は社内では初めてらしい。
修一郎が転勤する最後の日まで、私と言葉を交わすことはなかった。
同じ会社で働いている限り、またどこかで会うかもしれないけれど、本当にこれで修一郎と別れることができると思えた。
さようなら、修一郎。
十月になり、岩本君がアメリカに飛び立つ日になった。
有給休暇をもらって私は空港に見送りにいく。
「真歩さん。しばらく会えないと思うと寂しくなってきました」
守る時は守ってくれて、しっかりしている時はかなりしっかりしていて頼れる存在なのに、こういう時に甘えてくるので私の胸はかき乱されてしまう。
私だって会えなくなってしまうのはすごく寂しい。
お泊りして、朝まで一緒に過ごしていたのだから。
「休みが取れたら会いに行こうかな」
「ぜひ!」
私は手を差し出した。岩本君はかっちりと握手を交わしてくれる。
「頑張ってきてね」
「はい。毎日連絡します」
そのまま手をぐっと引っ張って思いっきり抱きしめられた。そして公の場だというのに唇に優しくキスをされたのだ。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
彼は颯爽と歩き出す。こちらを振り返って何度も手を振りながら。