隠れ御曹司の溺愛に身も心も包まれて
勢いよく家を出たのはいいが、私は立ち止まって考え込む。
財布を見てみると、残り一万円札しかなかった。生活費を折半し、その残りは貯金に回していたので自分のお小遣いなんてないに等しい生活を送っていた。
次の給料日までどうやって生きていけばいいのだろうか。
とりあえずゆっくりと歩き出す。
歩いていると胃の辺りが熱くなりイライラしてくる。
修一郎に捧げていた時間は何だったの? 結婚間近だと思っていたのに、家も恋人も財産も全てを失ってしまった。まさか自分が悲劇のヒロインになるとは思ってもいなかったのだ。いや……ヒロインにもなれていないかもしれない。ただの最悪な人生を歩んでいる人……かな。
悪い夢を見ているのかと疑いたくなってしまう。
行く場所がないので近所の公園に入った。夜ということもあって静かだ。遊具も営業終了をし、眠っている感じがする。
「……きついなぁ」
ベンチに腰をかけて考え込む。野宿しながらとりあえず生きるしかないのか。いやいや、流石にありえない。一時的に避難する場所とかないのだろうか。スマホで検索して情報収集してみるが、私よりも世の中にはもっと大変な人がいて、自分のような人間が使う場所ではないと思って画面を閉じた。
そのうちに酔っ払っている人がやってきて、コロンと転がって寝てしまう。
ど、どうしよう。そっと近づいてみる。
「大丈夫ですか?」
「うーんー」
こういう場合は、警察に通報したほうがいいのか。
困っていると若者がチューハイの缶を手に持ちながら騒いで公園に集まってきた。治安があまりにも悪いし身の危険を感じたので、公園を後にして交番によって酔っ払っている人が寝ていたと告げてから、ネットカフェに泊まることにした。