隠れ御曹司の溺愛に身も心も包まれて
昼休みになったが節約のためにパンを一つだけ購入し、屋上でぼんやりとしながらランチタイムを過ごす。大きな口を開けてかぶりつく。
「相野さん」
声をかけてきたのは岩本君だった。私の隣に腰をかけて顔を覗き込んでくる。
「いつもは美味しそうな手作り弁当なのに、どうしてパン一つなんですか? 相野さん、食べること好きじゃないですか」
まさか家を出てきたから節約のためにパンを食べているなんて言えず口ごもる。
「私は本気よ。プライベートの話はやめて」
私がさっき話していた言葉をそのまま口にされた。やはり話を聞かれていたのだ。
「お別れしたということでいいですか?」
「岩本君に伝える筋合いはないと思うけど」
「関係ありますよ。初恋の人で、なおかつ、今も恋心を抱いている人が悲しんでいるなら、助けたいと思うのは男心ですよ」
優しい瞳をしてこちらを見ていたので思わず甘えてしまいたくなる。しかし、後輩に頼るわけにはいかない。
「心配しないで。私は大人だから大丈夫」
「……わかりました」
二人の間に爽やかな空気が流れていく。都会の中にいるのに屋上にいたら周りの音があまり聞こえなくて、こんなにも静かなんだ。やっぱりこの場所は好き。癒される。