夜の姫は、夜王子の夢を見る。
「わ、私の話はいいから、ひーちゃんの惚気話聞かせてよ! ひーちゃんも日菜くんと付き合ってるんでしょう?」

 私が日菜くんの名前を出した途端、分かりやすく赤くなるひーちゃん。

 ひーちゃんは日菜くんと小学校の頃からお付き合いをしている。

 ふたり共ラブラブで、デートだって何回もしているらしいけれど、キスはしたこと無いそうだ。

 ―キス、あんな気持ちいいのになあ。やってみればいいのに。

 はて、首を傾げる私のおでこに、今多分「変態」と貼られているだろう。

「サラ、今やばいこと思ってるでしょ」

「ひゃあっ……⁉ あ、亜嵐くん⁉」

「わぁお、旦那様の登場じゃないの〜」

「邪魔者は立ち去りま〜す」

「ちょっ、あっちゃん、ひーちゃん、ゆっちゃんー⁉」

 後ろからまた私の肩に顎を乗せて甘い声で囁く亜嵐くんに、びくりと体が反応する。

 そうしたらみんなはにやにや意味深な笑顔を浮かべながらすたすた学校に向かっていってしまう。

 ヴァンパイア学園は全寮制だから、女子寮「プリンセス・ヴァンパイア」から学校に向かっていっていたところだった。

「亜嵐くんっ……もう、その肩に顎乗せるの、くすぐったいからやめて……!」

 くすぐったさはちょくちょく感じていたので、やめて欲しいとは思っていた。

 ―亜嵐くん、なんでこんなことしてくるんだろうっ……⁉ 女嫌いなはずじゃ……⁉

 前に亜嵐くんと仲が良い海斗くんから聞いたことがある。

『夜王はさ、めちゃめちゃ女嫌いなんだよね。女の子が半径一メートル以内に近づいたら、もうすっごい睨まれるみたい』

『ええっ……! そ、そうだったの……⁉ 怖そうだね……』

 なんて会話もしたことある。

「そ、それで亜嵐くん、なんでここにいるの? プリンセス・ヴァンパイアには男子禁制だよ?」

「それ言うんなら週一には俺の部屋来てるけど、それ無くなるよ?」

「うっ……プ、プリンス・ヴァンパイアに行けなくなるのは辛いっ……」

「悔しそうな顔も可愛い」

「ほわ……っ⁉ 何言ってるの亜嵐くん!」

 平然と、可愛いって言ってくる亜嵐くんに、やっぱりいつも私は翻弄されっ放しで。

 でも、そんな生活が楽しいから亜嵐くんと一緒にいるのだ。私は。

 ちなみにプリンス・ヴァンパイアは男子寮のこと。

「ふっ、本当、サラは敏感。こんなことされたり……」

 ふうっと私の耳に吐息を掛ける亜嵐くん。

 ―……ん、あっ……。
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