夜の姫は、夜王子の夢を見る。

5.お気に入り【side亜嵐】

「血……吸えて、無いよね?」

 そう、あいつに言われたとき。

 隠されているはずの瞳の色がバレたとき。

 俺は、そいつに運命を感じた。

 その、夜姫サラという女に、興味を持った。

○o。.◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇.。o○

 ヴァンパイア学園に入る前。

 つまり、中学生の頃。

「見て、亜嵐様よ……!」

「なんという美貌なの……!」

 ―あーあ、本当女って鬱陶しい。

 俺はいつも、そう思っていた。

 いつもいつも、俺の容姿だけ見て俺のことを好き好き言ってくる、鬱陶しい生きもの。

 それが女。

 俺の中では女の意識がそうだった。

「いやあ、ほんっとう羨ましいくらいに人気が凄まじいよな、夜王は」

 海斗にもそう言われている。

 海斗は小学校の頃から誰かに片想いをしているらしい。

 あんなルックスよし、運動・勉強完璧な超人が想う奴なんて、相当な奴だ。

「うるせえ」

「おーおー、怖い怖い」

 そう言ったのは俺の幼馴染である夜成輝こと夜成。

 ちゃらちゃらしてるくせに、ずっと一途に誰かを想う奴。

 恋愛話には興味がなく、誰を想ってる?だなんて聞いたことがない。

 ―ってか、こいつらといると女の視線が多くなるから、せめて人気のないところに来て欲しいんだけど。

 なんて、ぶつぶつ文句を心の中で付け続ける俺。

 ちなみに俺の瞳の色は、生まれつきとても薄い。

 血なんてどいつもこいつも不味いから、人間が食べるような食事で我慢していた。

 そこに役立った力が、この特殊能力。

 瞳の色をめちゃめちゃ濃く見させるという能力だ。

 あともう一つ。

 望んだ吸血鬼の心の声を聞き取る能力。

 例えば今だったら、海斗は……。

『早く教室戻りたいね。彼女いるし』

 なんて、おかしな変態みたいなことを思っているし、夜成は……。

『お〜、やっぱこの学校、可愛い子ばっかだねえ〜。ま、俺の本命は他の子と比べもんになんないくらい可愛いけど』

 なんて海斗みたいに変態みたいなことを思っている。

 ―きっも。

 素直にそう思う。

 この特殊能力は誰にも言っていない。

 母にさえ。

『ああ、かっこいいわ……』

『あんな吸血鬼、滅多にいないもの……』

『うちの学校、イケメンヴァンパイア三人組ね!』

 ちなみに中学では俺、海斗、夜成がイケメンヴァンパイアと呼ばれていたが、
 周りの女は、やはり容姿だけを見ている。

 あんな奴ら、視界に入って欲しく無い。

 気持ち悪い。

 鬱陶しい。
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