夜の姫は、夜王子の夢を見る。
 本当、嫌い。

 俺はあいつに出会うまで、ずっとずっとそう思っていた。

○o。.◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇.。o○

 俺の瞳を、初めてそう言ったそいつ―サラ。

 ―っ……なんで、バレた?

 俺は焦って、サラを壁に追い詰める。

 さっきから、サラから甘い匂いがして、やばい。

 全部の血を吸いたくなるような甘い匂いに、俺の神経は狂いそうだ。

「ごめん」

 そう言ってから、俺はサラの首に牙を当て、血を吸う。

 初めての相手がサラだから俺はもうサラの血しか吸えない。

 甘すぎる。

 今まで飲んできた血で、これだけ甘かった血は初めてだ。

 まあ、全然血なんて飲んでいないけれど。

 いつもの、喉に絡まりつくような苦さじゃない。

 すうっと喉を通る液体の甘い甘い血。

 紅はすごく濃いし、本人であるサラは気持ちよさそうに声を洩らしている。

 ―なんでこんな気持ちよさそうにしてるんだよ。俺の方が気持ちいいのに。

 サラの血を飲むことはとても気持ちがいい。

 毎日、いや、一分ずつに飲み続けてもいいくらい。

 でもそうしたらサラが亡くなるから、出来ないけれど。

 そのときからだ。

 俺がサラを気に入り始めたのは。

 そして今に至る。

「ひゃあっ……⁉ あ、亜嵐くん⁉」

 可愛い声を出したサラに、俺はまた心臓が跳ねる。

 サラの一言一句、一つの行動に俺は可愛さを覚える。

 ぎゅっと心臓を鷲掴みにされたような感覚になる理由は、きっとそれだ。

 サラの可愛さに、俺が我慢している証拠。

「邪魔者は立ち去りま〜す」

 そう言って立ち去っていった海斗の彼女。

 ―ん、やっとふたりきり。

 そのことだけが嬉しくて、俺はぽすんとサラの肩に体重を任せて、サラを補充する。

 俺の頭の中は「サラ」「可愛い」だけが埋め尽くしている。

 他の情報は入り切らない。

 いや、入らない。

 入る隙がない。

 俺は独占欲が強すぎるのだ。

 こんなにも、サラを独り占めしたくなる。

 そんな自分に、なんでこんなになったんだって目眩がする。

 それぐらい、俺の頭にはサラしかいない。

 いわゆる、好きという気持ち。

 契約を済ませたふたりは、卒業後、本当に婚約者となり未来に結婚する。

 それは、決まったこと。

 ―いらないだろとか思ってたけど、全然今必要じゃん。
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