夜の姫は、夜王子の夢を見る。
 ―っ、痛っ……。

 久しぶりに感じる、本当の痛み。

 じーんと染みて、じわりと血が溢れてきて。

 すごくすごく、泣きそうになって。

 うるっと涙目になったのも束の間、莉々花ちゃんは「ちっ」と舌打ちをして、私の横腹を思い切り蹴り上げて。

「ぐ、はっ……」

「思い知れ。莉々の屈辱を。どんだけあんたに嫉妬して、悔しくて泣きそうになったと思ってんだよ。莉々が欲しいのは亜嵐くん。なのにあんたがさっさと奪っていってさ」

 次々と莉々花ちゃんの口から出てくる、私への侮辱の言葉。

 辛くて、悲しくて。

 どさっ、大きな音を立てて、私は地面に落ちて。

 その上から、莉々花ちゃんに踏みつけられたものだから、ひとたまりもない。

「やめっ、て……」

「え? なんて言ってるのか聞こえなーい。声がちっちゃいですよー」

 くすくす笑って、足でぐりぐり背中をすられて。

 熱くて熱くて、死にそうになる私を、楽しむように莉々花ちゃんは高笑いする。

 ―いやあっ……死、ぬっ……。

 本気でそう思う。

 でも、その途端に、ふわりと私はしゃぼん玉に包まれた。

 痛みはどこかへ消えて、みるみるうちに雲の上まで上っていって。

 そして、この光景を、私は知っていて。

 どことなく、見たことがあるここ。

 下には真っ白な雲。

 上も横も、青空。

 私が浮く理由は、魔力の覆い。

「嘘でしょうっ……」

 私はここを、絶対に知っている。

 だってここは、夢で何度も何度も経験した、私が落ちた場所なのだから―。
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