夜の姫は、夜王子の夢を見る。

7.正夢

 高い高い、雲の上。

 一体ここで私は、落ちる前に何をしろというのだろうか。

 亜嵐くんに助けてもらうところまでは良いのだが、そのあとの展開がまだ良く分からない。

 死ぬのか、生きるのか。

 二択しか無いが、どちらでも味わうことは、恐怖。

 それだけは、絶対に決まっているから。

 ―嫌だっ、死にたく、無いよ……っ。

 私はぽろぽろと落ちる涙を手で拭きながら、しゃぼん玉での生活を待つ。

 でも最後、亜嵐くんと出会えるなら。

 まあ、良い方の死に方なのではないか。

 本気でそう思ったとき、潤んだ視界がひゅんっと動き始めた。

 そう、私は落ち始めたのだ。

 風がぶわあっと感じられる。

 これは、リアルだ。

 夢ではなく、現実。

 怖い怖い怖い。

 恐怖が心を支配する中、横から飛んできた吸血鬼。

 今思えば、翼を出すこと、羽ばたくことには大量の魔力が必要とされる。

 吸血鬼は魔力がなくなれば亡くなってしまうため、翼を出すことは大変危険とされる。

 ―亜嵐くんまで、死んじゃうの……?

 私はまた、違う恐怖に駆られる。

 私はまだしも、亜嵐くんが死ぬなんて絶対に嫌だ。

「亜嵐、くん……?」

「サラ……っ」

 潤んだ視界に、大好きでたまらない人が映る。

 その途端ぎゅうっと亜嵐くんに私は抱き締められて、キスされて。

 とても甘いキスを、昨日ぶりに堪能して。

 もう、キスも、ハグも、出来なくなると思うととてもとても悲しく寂しくなるけど。

 きっとこれは、私の運命だから。

 私を少しでも大切にしてくれてありがとう。

 亜嵐くんと出会えて、本当に幸せです。

 ―亜嵐くん、好き……っ。

 私は心の中そう呟いて、にこりと笑った。

「……っ」

 なぜか驚いている亜嵐くんにきょとんと首を傾げつつ、すぐにわちゃわちゃ口喧嘩し始めたイケメンヴァンパイア達に微笑ましく思う。

 日菜くん、夜冥くん、亜嵐くんは揃っているけど海斗くんはいなかった。

「サラっち⁉」

「サラっ」

「さっちゃん!」

「大丈夫⁉」

 みんなが心配してくれる。

 すごく幸せ。

 幸せをきゅっと噛み締める途中、ふいっと私を抱き締めた亜嵐くん。

「おい、さらっとサラに触るんじゃねえよ。サラは俺のだ」

 意地悪っぽく亜嵐くんが私に笑いかけていることに気づいて、顔を赤く染める。

「顔真っ赤。俺以外に見せないで」

「あっ、亜嵐くんのせいでこうなってるのっ……!」
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