夜の姫は、夜王子の夢を見る。

8.病院

 ―莉々花、ちゃん……?

「っ、サ、サラ、ちゃん……」

 ずっと下にいたらしい海斗くんが、呆然と私を見つめる。

 血の気が引く感覚。

 どうしようどうしようどうしよう。

 不安と恐怖と怯えで、また体が震えだす。

 いくら虐められたからって、別に殺したかったわけじゃない。

 私が踏んづけて、死んじゃうなんて……。

「サラ⁉」

「えっ、ちょ、夜乃莉々花⁉」

「みん、な……っ」

 震えた声で呼びかけると、みんなは慌てたように携帯を取り出す。

 救急車を、急いで呼ばなければ。

 その焦りだろう。

「救急車なら、俺が一番早く手配出来るよ」

 そう言ったのは。

 日菜くんだった。

 ―どうしよう、私のせいで莉々花ちゃんが……死んじゃったら、どうしよう……。

 ふるふると震える私に、亜嵐くんがまた優しく抱き締めてくれる。

 目からは涙が溢れ出す。

「なぜだ」

「だって俺の父さん、夜犬院の社長だもん?」

「ふうん」

 平然と、そして可愛らしくきょとんと言う日菜くんの言葉は、異常なくらいすごくて。

 到底、私は敵わなくて。

「うん、うん。そう、救急車ね。そしたら急いで夜犬院連れてっちゃって。うん……うん。じゃあ」

「日菜くん、どうだった……?」

 恐る恐る聞くと、日菜くんはぺろりとまたまた可愛らしく舌を出して、ぐっと親指を立てた。

「いいよだって!」

「……っ! ……よかっ、た……っ」

 そして私は安心したのか、ぷちっと意識が途切れてしまった。

○o。.◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇.。o○

 ―……ここは……?

 目を開けると、真っ白な天井と、綺麗な亜嵐くんの顔。

「……っほえ⁉」

「うおっ、起きた? サラ」

「う、うん、ありがとう……っ」

 間近に見た亜嵐くんの顔に、私はかあっと熱くさせる。

 ときどき意地悪をしてくる亜嵐くんに、やっぱり私は翻弄されっ放しだ。

「そうだ、莉々花ちゃんは……⁉」

「ああ、もう目が覚めた」

「どこっ⁉」

「そこ」

 つん、と亜嵐くんが指差した先には、ベッドで横になっている莉々花ちゃんの姿が。

 そこら中を包帯で巻かれ、痛々しい。

 ―私の、せいだっ……。

「莉々、花、ちゃん……」

「……」

 無言で、ふいっとそっぽを向いてしまう莉々花ちゃん。

 それでも、生きていてよかったと安堵する。
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