夜の姫は、夜王子の夢を見る。
「莉々花ちゃん……っ……ごめんね……」

「……」

 まだ無言。

 でも、莉々花ちゃんは何も言わなくて良い。

 別に、莉々花ちゃんが悪いってわけじゃないから。

 悪いのは……私だから。

 きゅっ、と冷めた莉々花ちゃんの手を握りしめる。

「ね、莉々花ちゃん。本当にごめんね。私のせいで、怪我させちゃって、本当に」

「……っ」

 莉々花ちゃんは、ゆっくりゆっくり、私の方を振り向いた。

 ―っ、莉々花ちゃん……。

 莉々花ちゃんの顔は、泣いたからか赤く腫れていて、今も目には涙が溜まっている。

「夜姫、さん……」

「莉々花ちゃん、本当、ごめん」

 私には、謝ることしか出来ない。

「夜姫さんが、謝ることじゃないのっ……莉々が、夜姫さんにむかついて、勝手に八つ当たりしたから天罰が下ったのっ……」

「莉々花ちゃん、違うよ。莉々花ちゃんは何も悪くないよ。……いやでも、蹴ったりされたのはちょっと悪いかな?」

「うん……」

 小さな子供のように、泣きながら話を聞く莉々花ちゃんに、私はふわりと笑いかける。

「あのね、莉々花ちゃん。むかついても、何があっても、暴力を振るっちゃだめだよ? ね……?」

「わかっ、た……」

「はい! もうこの話はおしまいっ! ほらほら、元気出して? 早く治って、いつもの可愛い莉々花ちゃんに戻らないと、みんな心配してるよ?」

「うん……っ」

 莉々花ちゃんはやっと笑って、一筋の涙を流した。

 ―良くこんな説教、紗絵にしたな……。

 妹の紗絵のしくしく泣いている顔を思い浮かべる。

 すると思わずくすっと笑ってしまった。

「それじゃあね、莉々花ちゃん」

「夜姫さん、じゃあねっ……」

 手をふり合って、私は夜犬院を出る。

「おい、サラ、良いのか?」

「へ? 何が?」

「お前、蹴られたりしたんだろ?」

「あー、あはは、まあそうだけど……あれは、ちょっと事情があるだろうから、いいの」

「……優しいな、サラは」

「そうかな?」

「そんなところが好きになったけど」

「ありが……っえ」

 ―す、好き……?

 ありえない単語が亜嵐くんの口から飛び出して、私は驚愕。

 亜嵐くんが、私を好き?

 ありえない。

「と、友達として……ってこと?」

「んーん、恋愛対象として」

「っ……わ、私も……好きっ……」

 思わず出た、その言葉。
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