夜の姫は、夜王子の夢を見る。
『おや、結果が決まったみたいです。それではまず、roiの発表から!』
薔薇で飾られている大きなスクリーンに、映し出された名前。
それは、きっと誰もが望み予想したであろう名前だった。
『一年S組! 出席番号三十五番の……夜王亜嵐ー!』
「うおおーっ!」
「亜嵐様ーっ!」
女子からは黄色い悲鳴、男子からは声援が飛び交う。
―に、人気が凄まじい……やっぱり、イケメンヴァンパイアってすごいんだなあ。
そんなことをほわーと思っていた私の視線に入ったのは、ステージに上がった夜王くんの姿。
私はその夜王くんの瞳の色に、ぎょっと目を見開いた。
彼の瞳は、深い深い紅……では、ない。
とてもとても、薄かった。
紅と言えないぐらい。
朱色だ。
でも、みんな気づかないで声援を送っている。
―どう、してっ……? なんでみんな、気づいていないの……?
薄すぎるということは、早く血を吸わないと病気になり亡くなってしまう可能性もあるということ。
『reineは……一年S組、出席番号三十七番、夜姫サラ!』
「さっちゃん……!」
「サラ様ーっ!」
「くっそ、サラちゃんー!」
reineに選ばれたので、ステージに上がる。
やはり、近くで見て分かる。
夜王くんの瞳の色は、薄すぎる。
吸血鬼は、瞳の色でどれだけ血を飲んでいるか、そして体調も分かる。
薄すぎれば体調が悪く血を飲んでいない印。
濃すぎれば、甘い甘い血を飲んでいて、体調は万全の印。
―このままで行くと、夜王くんはっ……。
さあっと、顔が青くなる。
一刻も早く助けたい。
吸血鬼は吸血鬼の血も飲めるから、私の血でも良いから飲んで欲しい。
夜王くんが亡くなってしまうのは嫌。
そう、直感に思ったのだ。
『それではふたり共、契約部屋へどうぞ』
私は学園長の言葉に精一杯頷き、夜王くんの手を握って、このホールの後ろにある契約部屋へと向かっていった。
がちゃり。
契約部屋の扉に鍵を掛けてから、私は豪華なヨーロッパ風の椅子に、頬杖を付いて私の方を睨んでいる夜王くんの元に駆け寄った。
「よ、夜王くん」
「あ?」
冷たい視線、棘のある言葉に私の体はびくっと恐怖を覚える。
―でも、夜王くんのため……だから。
こくんと唾を飲み込んで、私は夜王くんに一歩近づく。
「血……吸えて、無いよね?」