夜の姫は、夜王子の夢を見る。
「んっ……」

 甘い。

 亜嵐くんとの初めてのキスは、とても甘かった。

 ついでに舌も絡め合って、ふたりの唾液がごちゃまぜになる。

「ん、はっ……」

 キスが終わった。

 まだして欲しいという欲も合ったけど、これ以上やったらやめられなくなる気がしたから。

 ―……キスって、こんなに気持ち良かったんだ……。

 こんなことを思ってしまう私の体に、自分自身で驚く。

 私の体は、もう亜嵐くんに支配されてしまっている。

 それが、キスされている途中に思い知った。

「亜嵐くん……っ?」

「ん」

 ベッドに潜り込んだ私と亜嵐くんは、最後の契約である紅い三日月のペンダントを首に掛ける。

 ペンダントを首に掛けた途端、ぶわっと魔力が私の体を幕で覆った。

 しゃぼん玉のような感じに、私を覆えば、ぱちんっと弾けてしまって。

 そしてその弾けたものが私に吸収される。

 これが、魔力での契約。

 この魔力は永遠に使えて、そして誰にも奪われない。

 けれどペンダントが他の吸血鬼の首に掛かれば、私の魔力は全て失われてしまう。

 魔力が体から無くなってしまうと、その吸血鬼は二十四時間中に亡くなってしまう。

 ―も、もうこのペンダント外せないなあ……あはは。

 苦笑を浮かべつつ、私はもう眠ろうと目を瞑った。

「おやすみ、亜嵐くん」

「おやすみ」

 頭をぽんぽんと撫でてくれた亜嵐くんに安心したのか、私はその日、ぐっすり眠ったのだった。

○o。.◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇.。o○

 それにその日、私は夢を見た。

 私はついさっきの魔力のしゃぼん玉に覆われて、青空を飛んでいる夢。

 吸血鬼が飛べる高さを遥かに超えた、雲の上だった。

 ふわふわと浮いていることが楽しくて、私はしゃぼん玉に張り付くように雲を眺めている。

 でも、その途端に。

 ぱちんっ。

 しゃぼん玉は音を立てて割れて、私はみるみるうちに真っ逆さまに雲を突き抜けて落ちていく。

 ―嘘……っ……でしょう……。

 夢のはずなのに現実に感じられて、私は顔を青くさせる。

 風もぶわはあっとリアルに感じられる。

 そうしたら、横から飛んできた何かに、私はすっと救われた。

 夢とは思えない立体感。

 そして、その飛んできた何かの正体。

 それは……。

「亜嵐、くん……?」

 亜嵐くん、本人だった―。
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