夜の姫は、夜王子の夢を見る。
 ―亜嵐くん、甘すぎる……心臓が、持たないよ……。

 私はどきどきとうるさい心臓のところをぎゅうっと掴んで、むうっと亜嵐くんを振り向いた。

 そうしたら、あまりにも整った顔が近すぎてかああっと顔が赤くなる。

「亜嵐くん、その……なんで目の色、みんなにバレてないの……?」

「ああ、んー……俺の特殊能力で、みんなには見れないみたい」

「特殊能力……?」

「そう。生まれたときからある、特殊能力。あともう一つあるんだけど」

 ふ、ふうん……?と疑問形に頷く。

 特殊能力っていうのが、吸血鬼の誰かの中にあるということは知っていたけれど、こんな身近に、そこまで特殊じゃなかっただなんて。

 ちょっぴり失礼だから、亜嵐くんには言えないけど。

 私は紅いふわふわカーペットの上で立ち止まりながら考える。

 ―それに、今日の夢は……何だったの……? 私が、飛んで、落ちて、亜嵐くんに助けられる夢……あと、もう一つの特殊能力って?

 はて、また首を傾げる私に、亜嵐くんはまた甘い声で囁く。

 びくりと私の体は跳ね上がってしまうので、もう心臓は破裂寸前。

「まーた、何考えてんの?」

「ひゅあっ……あっ、亜嵐くん、それやめて……っ! ご飯作るの……っ!」

 耳がぞわっとして、体が反応しちゃうから。

 心の中で付け足して、離れてくれた亜嵐くんに安堵してからキッチンに向かう。

 今日の朝ご飯は、家でよく出る目玉焼きとかにしようと思っている。

 そして、数分後。

 ゆったり、頬杖をつきながらテレビを見ている亜嵐くんの前に、朝ご飯を置く。

「亜嵐くん、出来たよ……っ」

「……んわ、すご。サラって料理上手かったんだ」

「お、女の子としてこれぐらいは出来るよ、みんな!」

 ―す、素直に褒めてくれるとは思わなかったな……あはは。

 私はいただきますと口にして、朝ご飯を口にした。

「いただきます」

 亜嵐くんも食べ始めて、美味しいかな……と不安を抱く。

「ん、うっま。サラ、やっぱ天才じゃん」

「ありが、とう……?」

 嬉しいや、とえへへと笑ったら、亜嵐くんはさっとそっぽを向いた。

 手で顔を覆って、隠している。

「あ、亜嵐くん?」

「いや……そんな無防備な笑顔、見せないで欲しい」

「えっ……」

 私の笑顔がそんなに気持ち悪かったってことだろうか。

 でも、亜嵐くんを良く見れば、耳が真っ赤になっていることに気づいた。

 ―て、照れてる……?
< 8 / 28 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop