夜の姫は、夜王子の夢を見る。
 どうして?と疑問が浮かぶ。

「亜嵐くん、照れてるの……?」

「っ!」

 ばっとこっちを向いた亜嵐くんは、顔を林檎のように真っ赤にしている。

 やっぱり照れているのだ。

 でもその理由がわからない。

 ―か、可愛い……。

 なんで照れてるのかはわからないけど、あんなクールな亜嵐くんが照れていて、可愛いと母性本能をくすぐられる。

「亜嵐くん、特殊能力で瞳の色を隠せるんじゃないの?」

「っ……うるせえ」

 ちょっとだけ棘のある言葉だけど、そこでも照れている亜嵐くん。

 瞳の色は感情も表せるから、どういう感情なのか大まかにわかる。

 感情が高ぶっていれば瞳の色は紅が濃くなるし、感情が冷えていれば瞳の色は紅が薄くなる。

 だから、最初薄かったときは、感情も高ぶっていない冷えているときだったっていうこと。

「ほらほら、亜嵐くん、教室に向かわなきゃだよっ! 食べて?」

「……」

 ―ふふふっ、亜嵐くんに昨日の強引すぎるキ、キスの仕返し、ちょっとは出来たんじゃないかなあ?

 悪戯心が働いている。

 それを実感する。

 そんなこんなで、私の頭からは不安な夢の意識は消えた。

「ごちそうさまでしたっ」

「ごちそうさま」

 亜嵐くんは静かにそう言って、更衣室に入って制服に着替えると、さっさと出てきた。

 やっぱり、照れていることがバレて恥ずかしいのだろう。

 だって亜嵐くん、感情がちゃんとあるのだから。

「行こう、亜嵐くん!」

「あ、ああ……?」

 私は亜嵐くんの手を握ると、契約部屋を飛び出した。

 ―なんだか……亜嵐くんといるの、すっごい楽しいかもっ!

 私は一人そんなことを思って、一年S組の教室へ向かった。

「あっ、さっちゃん……!」

「あっちゃん……!」

 私はぱっと亜嵐くんの手を離して、ぴょいぴょいあっちゃんと飛びあった。

「さっちゃん大丈夫? 夜王に何かされてないっ⁉」

「さ、されてないよ! ありがとう、あっちゃん、心配してくれて」

 私はあっちゃんと散々喜び合ってから、亜嵐くんと隣の席で座りあった。

 ―あっちゃん……私のこと、心配してくれていたことがわかるよ……大好きって、改めて思っちゃうなあ……なんて。

 そしてまだ、そのときは知らない。

 そのクラスに、イケメンヴァンパイアの残るふたりと、強力すぎるライバルがいたことなんて―。
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