策略に堕ちた私
「ぎいやああっ」

 思わず叫べば、社長は驚いたのか、ビクッと手を引っ込めた。

「ちょ、社長、なにすんですか」

 私は、社長から反対方向に転がりながらシーツを体に巻き付ける。
 広いベッドのせいか、くるっと一周シーツを体に巻き付けたところでやっとベッドの端に来て、そこで、絨毯に足を下ろして立ち上がった。
 しかし、太ももがカクカクと震えて、ペタンと絨毯に尻もちをつく。
 た、立てない、なにごと?
 テニスをやった翌日に箸で梅干を摘まめないあの現象が足腰に起きてる?!
 そんな私を見て、社長はベッドから降りて、いとも軽々と私を抱き上げるとベッドに横たえた。

「ごめんね、昨夜は無理させちゃったね」

 そんな意味ありげなことをほざきつつ、それは甘やかな雰囲気を出して、さも大切なもののように私の頭を撫でてくる社長。
 その口元にはふわりと笑みが浮かんでおり。
 何て目なの、私、すごく慈しまれてる。
 こんなに優しい目を向けてこられたのは初めてだ。
 その目つきに胸がきゅんと高鳴る。
 こんな目を向けてくる人、私、知らない……。
 誰、これ………。
 あ、社長だった!
 私はごろりと転がって、社長から距離を取る。
 状況からして完全に何かがあった模様。
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