策略に堕ちた私
 高橋にふつふつと怒りが込み上げてくるものの、最大限平静を装って訊いた。

「えっと、私のどこが悪かったのかなあ?」

 指摘されても直すつもりはないけど一応訊いてみた。
 別れは受け入れるけど、せめて理由くらい教えて欲しい。
 デートは一回やっただけだけど、高橋は始終楽しそうにしてたし、私も楽しかった。帰りの電車ではホームでずっと手を振ってくれてたし、翌日に会社で目が合ったときには、はにかんだ笑みを向けてくれた。
 なのになんで?
 私のどこが悪かったの?

「とにかく無理なんです」
「わかるように説明して」
「とにかく、無理なんです!」

 高橋はきっぱりと言い放つ。そして、気まずそうに俯いていく。
 きっつ。
 新卒にすがるアラサー女、きっつ。
 どうせ、社内バレして、「もっと若い子と付き合え」とか「山田常務に脅されてるのか」とか言われるうちに、目が覚めたんでしょうよ。
 それとも間近で見た毛穴の大きさが想像を超えてたとか、どことなくお母さんみを感じたとか、挑戦したけどやっぱり無理だったとか。
 まあ、もともと降ってわいたようなことでしたし、こんな年増が新卒と付き合うなんて図々しいことだとはわかってましたしね。
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