策略に堕ちた私
 私は社長に食ってかかる。

「会社でお酒なんか飲みませんよ! 私のこと何だと思ってます?!」
「でも酔ってるよね」
「酔ってません!」 
「よくこれで酔えるね」
「だから、酔ってません! 飲まないなら返してくらはい!」

 そう言うと、社長はプシュッと缶を開けた。

「どうして社長はモテるのに、私はモテないんでしょうか」

 社長は、婚約者もいるくせに複数の女性とも浮名を流す色男だ。ふしだら極まりない。しかし、部下にまで手を出すような男ではない。そこは信頼している。

「私はこの社では二番目なんだから、二番目にモテてもいいのに、全然モテませんよ!」

 ここはもともと傾きかけた不動産会社で、私が入社したときには数名ほどの小規模な会社だった。入社直後、瀬川グループに買収されて、瀬川社長が着任してきた。
 今では社員の規模は数十人となったが、当時から残る社員は私だけ。
 瀬川社長の着任後、用地買収へとビジネスの方向を変えたお陰か、会社は急拡大し、私自身も社内で出世してきた。今では社長の右腕、ナンバーツーだ。

「ひょっとして、俺に言い寄れとでも?」
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