策略に堕ちた私
 私は鼻で笑った。

「はっ、やめてくださいよ。社長に遊んで捨てられるのなんかまっぴらです。それに、前々から言ってますよね。社長は圏外だって。体は無駄に大きいし、顔は無機質だし、性格もひん曲がってますし、何より可愛げがないし。私はもっと可愛げのある人が好きなんです!」
「だよね、知ってた」
「長い付き合いですしね。私も自分が社長の圏外だって知ってますし」
「山田さん、出会ったときにはもう少し俺に優しかったけどね」
「9年で鍛えられたんです」
「9年、かあ………」

 社長はしんみりとした声を出してきた。
 この9年、土地の買収をしては、大手デベロッパーに売りつける日々だった。
 昔話に花が咲く。

「新橋のビルで詐欺にあいそうになったこともありましたよね」
「岩佐専務が勘づいて、取引を中止できたから助かった。専務、元気かなあ、お孫さんにめろめろだったよね」
「専務がいなけりゃ、うち、とっくに倒産してましたよね。社長、最近まで、ずっと役立たずでしたもん」
「右も左もわからなかったからね」
「着任当時はスーツ着たお坊ちゃんって感じでした」
「まだ未成年だったしね」

 そこで私はブフーッと社長に向けて口の中のものを吹き出した。それを社長が咄嗟にバインダーを立てて防御する。阿吽の呼吸だ。
 ええ? 9年前に未成年?
 私はバインダーに滴る液体をティッシュで拭き拭き言った。

「社長ってばアラフォーですよね! サバ読み過ぎです!」
「えっ」

 社長がショックを隠しきれない顔をしている。
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