策略に堕ちた私
 誰だろう、この人。前髪で顔が隠れて良く見えないけど。
 それにしても、すごく柔らかそうな唇だなあ。
 真横の人をぼんやりと眺める。髪も柔らかそう。
 眠っているのをいいことに髪を触ってみた。
 柔らかい、ほわっほわっ……!
 黒くて細くてほわっほわ……!
 頬も触ってみる。うわあ、お肌がつるつるー。
 顔にかかった前髪を上にあげれば、知らない顔のはずが、よく知っている顔になった。

 え、社長?!
 うわおっ?!

 寝ぼけた頭が急に覚める。
 私が身じろいだせいで、ベッドのスプリングが跳ねる。
 その振動に社長はうっすらと目を開けると、私と目が合った。
 すると社長は私に微笑みかけて、自然に、まさに自然な感じで、私をその胸に抱き寄せて、また寝息を立てはじめた。
 社長にすっぽりと抱かれて、社長の胸に私の頬が当たる。
 うわ、あったかーい。大きな湯たんぽみたい。滑らかで適度に弾力があって社長の体、触り心地が良いわあ。
 思わず頬をすりすりする。
 すると甘やかな声が降りてきた。

「ふふ、くすぐったいよ」

 誰の声ですか、それ。
 いつもの社長の声より二オクターブは高い声ですよね。
 顔を上げると社長と目が合う。
 社長はゆったりと目を細めて笑んだ。
 私のお尻に手らしきものが降りてくる。さわさわと撫でられる感触。
 へっ、私のお尻、むきだし?!
 そして、私の股間にはティッシュ的な何かが挟まっており、それが取り払われれば、社長の指らしきものがありえないところをくすぐってきた。
 あっ、あんっ………、やめて、社長……、そんなところ、触らないで……。
 じゃなくて!
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