【完結】あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です。
 ライナルトさまを見つけると、ふいと視線をそらされた。そのことが事実だと物語っている。

「クラウノヴィッツの薬が、ふたりの縁を結んだのね」

 ノイマイヤー侯爵夫人は微笑みを浮かべると、お茶を飲んで立ち上がった。

「わざわざ来てもらって悪いのだけど、まだ仕事が残っていて……あとは若いおふたりで、ね?」

 悪戯が成功したように口角を上げるノイマイヤー侯爵夫人に、私とライナルトさまは顔を見合わせて――もしかして、それが狙いだったのでは? と考えてしまう。

 侯爵夫人は忙しい方なのに、わざわざ時間を作ってくださったことには、とても感謝しているわ。

「……少し、歩くか?」
「そ、そうですね」

 残された私とライナルトさまは、ノイマイヤー邸を案内してもらった。先程までの部屋は応接間だったみたい。

 彼の隣を歩いていると、まだ夢なんじゃないかって考えてしまう。実感がわかない。本当に。

「大きなお屋敷ですね」
「タウンハウスだからそうでもない。領地の屋敷のほうが大きい」
「……え」

 さ、さすが侯爵家……

「シーズン中だからタウンハウスにいたが……そう考えると、きみのプロポーズはちょうどいいタイミングだった」
「忘れてくださいっ」

 今でも謎なのよ、『お友達になってください』が『夫になってください』になったことが!

 思い出すだけで顔から火が出そうなほど、恥ずかしい。
< 12 / 28 >

この作品をシェア

pagetop