【完結】あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です。
 ああ、あのときのことか。

 殿下の勘違いで、確かにたくさんの方々に注目されたわね。

 ……そのことをわざわざ、謝ってくれるなんて……

「い、いえ……。こちらこそ、紛らわしい視線を向けてしまい、申し訳ございません」
「いや、それはきみが謝ることじゃない。ナターリエにも叱られてしまってね。機会があれば謝罪したかったんだ。あのときは本当にすまなかった」

 すっと頭を下げる殿下に、私は慌てて「大丈夫ですので、顔を上げてください!」と声をかけた。

 それにしても、ナターリエさまに叱られたってどういうこと……?

 ちらりと彼女を見ると、おかしそうに目元を細めていた。

「本当にごめんなさいね。殿下、思い込みが激しいところがあって……、いえ、そんなところも可愛いのだけど」

 惚気かな?

「あなたにとっては、知られたくなかったことではなかったのかと思ったの。恋しい人を暴露されたのも同然だもの……」

 ええ、まあ、見事にバレましたね。

 なんて軽く言えたら良かったのだけど、高位貴族のおふたりになんて言えば良いのかわからずに、曖昧に微笑むしかなかった。

「その、謝罪としてシェフ特性のケーキを用意した。クラウノヴィッツ男爵令嬢は甘いものが好きだと、ライナルトから聞いている。ぜひ食べていってほしい」

 なぜ私の好物を殿下が知って……と思ったらライナルトさまー! 殿下にいったいなにを教えているのですかー!

 ……でも、美味しそうなケーキに罪はない。

 ありがたくいただこう。

 緊張して味がわからないかと思ったけど、私の精神って案外図太いみたいで、美味しくいただけた。

「……あの、ヴェルナー殿下。あのとき、話しかけてくださったことには、感謝しているのです」

 とりあえず、ケーキを堪能してからお茶を飲み、カップを置いてヴェルナー殿下に視線を向ける。

 彼は不思議そうに首を傾げて私を見た。
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