【完結】あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です。
◆◆◆

 ――ついに迎えたパーティー当日。

 私はたぶん、緊張のあまり顔が青ざめていると思う。ライナルトさまが気遣うように、そっと肩に手を置いてくれた。

 大丈夫か、と心配そうなまなざしを向けられて、なんだか落ち着いてきたわ。

「それじゃあ、始めましょうか」

 ノイマイヤー侯爵夫人の一声から始まった今回のパーティー。

 華々しいこの舞台に、私が立つことになるとは夢にも思わなかった。

 ノイマイヤー夫妻は、ゆっくりとした足取りで階段を下りていく。

 ざわざわと、周りがざわめき始めたのが耳に届いた。

「本日は我がノイマイヤー邸へようこそいらっしゃいました。噂に敏感な方々はすでにご存知かと思いますが、我が息子、ライナルトが婚約をいたしました。その報告をしたく、パーティーを開きました。――さぁ、こちらへ」

 ノイマイヤー侯爵の挨拶から始まり、ライナルトさまが腕を出す。

 彼の腕に自分の手を絡め、ゆっくりとした足取りで歩き出した。

 今日の私は、いつものような地味な格好ではなく、侯爵夫人のプロデュースと、メイドの方々の手腕によって全然違う姿になっている。

『原石が宝石になったわ』

 と、私の姿を見た侯爵夫人が微笑んでいた。

 私も、自分の姿を姿見で確認してびっくりした。メイクや髪型でこんなにも違うのねって。

「大丈夫。今日はいつにもまして美しいから」
「ら、ライナルトさま……」

 真顔で言われると……恥ずかしさのほうが勝ってしまう。

 深呼吸を繰り返してからライナルトさまを見上げ、私たちの登場を見ていた方々へと視線を巡らせる。

 一歩一歩、きちんと階段を下り、ノイマイヤー侯爵たちのところへ。

 ライナルトさまに絡めていた腕を離して、前を見据えてにこりと微笑む。
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