【完結】あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です。
 驚愕の表情を浮かべるヴェルナー殿下。

 ナターリエ公爵令嬢が、くすくすと笑い声を上げた。

「ほら、殿下。わたくしの言った通りだったではありませんか」
「……だって、とても熱い視線だったんだよ。それならば、きみはいったい誰を見つめていたというのだ!」

 ……えっと、答えないといけないのかしら?

 バレバレになっちゃうの?

 戸惑っていると、ヴァルナ―殿下が「ほら、答えられないのなら、僕だろう!」と胸を張った。

 胸を張るほどのことではないと思う。

 そんな殿下を、ライナルトさまが面倒そうに眺めていた。

 ああ、その表情も素敵。

「……やっぱり今日も格好いいですわ、ライナルトさま」

 うっとりとつぶやく。

 私たちの会話を盗み聞きするためか、しんと静まり返っていたから、つぶやきは予想以上に会場内に響いた。

 見つめるだけで、恋人になりたいなんて身分違いなことは考えていない。

 だからこそ、見つめることだけは許してほしい。

「ら、ライナルト? ライナルトを見つめていたのか?」
「はい。殿下の近くにいらっしゃったので。あ、だから殿下は誤解なさったのですね。ご安心くださいませ、殿下とナターリエさまのことを応援しております」
「あ、ああ……それはありがとう? いや、そうではなく。ライナルトをなぜそんなに熱い視線で見つめていたのだ? あいつは格好いい、というほど格好いい男ではないだろう?」
「……お言葉ですが、殿下。ライナルトさまほど格好いい男性はいませんわ」
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