【完結】あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です。
「紹介します。我が婚約者のレオノーレです」

 ライナルトさまの簡単すぎる紹介に、ノイマイヤー侯爵は一瞬呆れたような視線で彼を見る。公爵夫人がこちらを見ていたので、私は一歩踏み出してカーテシーをしてから、自己紹介をした。

「ごきげんよう。レオノーレ・テレーゼ・クラウノヴィッツと申します。お目にかかれて光栄でございます。どうぞ、よろしくお願いいたします」

 私が自己紹介を終えると、さらにざわめきが強くなった。クラウノヴィッツは男爵家だからね、仕方ないよね。

 そんなことを考えていると、ナターリエさまが近付いてきた。

 そっと私の手を握ると、「綺麗なカーテシーだったわ」と褒めてくれる。

「ありがとうございます、ナターリエさま」
「うふふ、わたくしたちの仲じゃない」

 ざわめきはさらに強くなった。

 次期王太子妃のナターリエさまと親しくしているからだろう。

 わかりやすい。おそらく、周りの人たちは私とどういう関係を築こうか悩んでいると思う。

 利害関係も、貴族としては大事だからね。

 ふと、音楽が聞こえ始めた。ダンスタイムになるみたい。

 ちらりとライナルトさまに視線を向けると、バチっと視線が交わった。

 それを見ていたナターリエさまは、私の手を離して背中をぽんと軽く押し、「踊ってらっしゃい」と微笑む。

 すっと、ライナルトさまが私に手を差し出す。

 彼の手を取り、歩き出す。ホールの中央で踊り出す私たちを、いろいろな人が見ていた。

 それでも、その視線は気にならなかった。だって、ライナルトさまと踊れているのだもの!

 一ヶ月のあいだ、侯爵夫人からいろいろ教わったけれど……中でも一番大変だったのはこのダンスだった。
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