【完結】あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です。
 帰りの馬車で、ライナルトさまはぽつぽつと言葉をこぼす。

 殿下とナターリエさまに、今度私と湖に行くから休みがほしいと伝えたら、ナターリエさまに湖のジンクスを教わったこと、ずっと気になっていた『私なんかで』という言葉を払拭されたかったこと、自身もきちんと私を求めていると、理解させたかったこと。

「……そうだったのですか……」
「……きみはいつも、俺と一緒にいられることが嬉しいのだと伝えてくれていたから。さすがの俺でも、きみの気持ちが本当にオレに向いているのだと理解できた」

 ……自分でもわかりやすい態度だと思います……。だって、好きなのだもの。

「ライナルトさまのお言葉、とても嬉しかったです」
「……これから、いろいろなことが俺たちに降りかかると思う。だが――……」
「ふたりで、一緒に解決していきましょう?」

 ひとりだけに負担をかけるのではなく、ふたりで支え合って生きていく。

 それが――夫婦というものだと思うから。

「――きみとなら、どんなことでも乗り越えられそうだ」
「私もそう思いますわ」

 ふたりで微笑み合ってから、馬車に乗る。クラウノヴィッツ邸へ送ってもらい(パーティーは終わったから)、「今日はありがとうございました」とお礼を伝えた。

 ライナルトさまはゆっくりと首を横に振り、「また今度、ふたりで遊びに行こう」と言ってくれたので、私は嬉しくなって、「はいっ」と元気よく返事をする。

 そっと、ライナルトさまが私の頬に触れた。

 視線を上げると、ライナルトさまの顔がドアップに!

 唇に、柔らかいものが触れる感じがして……こ、これはもしや……!?

 恋愛小説によくある、く、く、口付けというものでは……!?

「また今度」
「は、はい……」

 小さく微笑みを浮かべてから、去っていくライナルトさま。その姿を、ずっと見送っていた。

 家に入ることもせずに、ずっと。

 だって、絶対顔が赤くなっているもの!
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