【完結】あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です。
 ライナルトさまの喋り方って、あまり怖くない。

 優しい声色だし、どうしてみんな、あんなに恐れているのかしら? 不思議だわ。

「……レオノーレ嬢」
「は、はいっ」
「俺のことを心配してくれて、ありがとう」

 きゅん、と胸が締め付けられそう。

 私の知らないライナルトさまの表情が……向けられている。

 そのことにどうしようもなく、ときめいてしまう。

 私、本当にライナルトさまのことが好きなのね……と改めて思った。

「あ、あの、ライナルトさまっ」
「なんだ?」

 私はライナルトさまに身体を向けて、胸元で手を組み、彼のことをじっと見つめてから声を出す。

 言え、言うんだ私! お友達になってくださいって!

「わ、わ、私の……、お、お、お……っ」
「?」
「夫になってください!」

 ……、……、……、こ、言葉を間違えたぁ……!

 お友達になってください、がどうして『夫になってください』になったの私!

 願望がだだ()れている!

 恥ずかしくて顔を両手で隠すと、ぷっと()き出す声が聞こえた。

 おそるおそる彼に視線を向けると、ライナルトさまはくつくつと肩を震わせて笑っていた。うう、笑われている……

「すまない、あまりにも意外な言葉だったから。俺に対して求婚してきた令嬢は、きみが初めてだ」
「申し訳ございません、つい願望が……」
「……不思議な人だな、きみは」
< 7 / 28 >

この作品をシェア

pagetop