【完結】あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です。
 すっと私の前に跪いて、手を取った。そのまま手の甲に唇を落とす。

「こんな俺でも良いというのなら、喜んできみの夫になろう」
「――っ、え、あ、あの……!? ほ、本当に私なんかで良いんですかっ、私、身分相当低いですよ!?」

 慌ててそう言うと、ライナルトさまはくすりと笑った。

 ……ああ、こんなに柔らかい表情を見られるなんて……! って、そうじゃないっ!

「――で、いったいいつまで覗いているつもりですか、殿下たち」
「えっ!?」

 バルコニーの扉が開いて、殿下とナターリエさまがにやにやと目元を細めて入ってきた。

 え、えええっ、もしかしてずっと見られていたの!?

「ごめんなさいね、つい気になっちゃって」

 ナターリエさまが扇子を広げ、口元を隠しながら私に近付いてきた。

「……いや、まさか本当にライナルトを見ていたとは……。ナターリエ、これはライナルトに春が来たということか?」
「ええ、殿下。ライナルトが女性の手にキスを落とすところなんて、初めて見ましたわ」

 は、初めて!? だ、だってライナルトさまは殿下の護衛だから、女性と知り合うことだって多かったろうに……!

「硬派なんですね……!」

 私の言葉を聞いて、三人は顔を見合わせて――……、ナターリエさまと殿下は思わずというように肩を震わせ、ライナルトさまはバツが悪そうに視線をそらした。
< 9 / 28 >

この作品をシェア

pagetop