始まりは愛のない契約でしたが、パパになった御曹司の愛に双子ごと捕まりました
玲香が晴臣を『顔だけの男』と評するのはプライドを傷つけられた負け惜しみだとも思えるが、翔子の言い分は看過できない。
(商品を『卸してやっている』だなんて……やっぱり取引が終わるのを知らないんだ。それよりも叔母さんは、彼や桐生自動車から金銭的な援助を引き出そうとしてるの?)
先ほど帳簿を見た限り、秋月工業の負債はかなり大きく膨らんでいる。萌と晴臣の結婚に口を挟んでこないのは、桐生家と縁続きとなり取引を磐石なものにしたいという思惑だけでなく、負債の補填までも頼る気でいるのだろうか。
さらに高級車を集るような発言まで飛び出し、彼女たちの異様さに身体が震えた。
(そんなこと、絶対にさせられない……!)
一緒に生活していた頃の萌はすべてを諦め、思考を止め、ただ彼女たちの言いなりになっていた。
けれど、今は違う。ふたりがいかに恥ずかしげもなく理不尽で身勝手なことを言っているのかがよくわかる。あの家を出たことで、彼女たちを客観的に見られる視点を持てた。
これ以上彼女たちになにを言っても無駄だと絶句していたところに、健二が戻ってきた。
「やかましい。ここは社長室だぞ」
「パパ!」
「あなた」
不機嫌そうな顔でデスクにやって来た健二は「融資の件で先月までの月次決算書が必要になったんだ。しゃべっていないで急げ」と萌を睨みつけてくる。