始まりは愛のない契約でしたが、パパになった御曹司の愛に双子ごと捕まりました

きっとマスコミはこぞって『桐生自動車の取引先』や『桐生自動車御曹司の妻の実家』など、秋月の名前以上に桐生の名前を出して不正の事実を報道するに違いない。もし逮捕となればなおさらだ。

新聞や週刊誌だけでなくワイドショーなどで取り上げられてしまえば、桐生自動車の信用が落ちてしまうかもしれない。あることないこと騒ぎ立てやれ、きっと悪夢のような現実が待ち構えている。

(でも……このままでいいの?)

彼らの不正を見過ごしていいのかと考えた時、良心の呵責に苛まれた。

横領や脱税にも時効はある。あとになって「あの時、告発しておくべきだった」と後悔しても遅いのだ。

従業員が必死に働いても給料をカットされる中、社長やその家族が経費と称して豪遊しているだなんて許されていいはずがない。

それからの数日間は、そのことばかりを考えた。土日で仕事が休みだったのも手伝って、マンションから一歩も出ないでひたすらに考え続けた。

グラグラと気持ちは天秤のように揺れたが、悩みに悩んで、萌は告発すると決意した。

『いいか悪いかじゃない。萌がどうしたいかだよ』

晴臣の言葉が脳裏に浮かび、萌を後押ししてくれた。どれだけ叔父一家に恨まれようと、やはり犯罪を見逃すなんてできない。

そしてそれと同時に、もうひとつ決断しなくてはならないことがある。

わかっているからこそ辛くて、この数日、涙が止まらないのだ。

(でも、もう決めた。私は、晴臣さんを愛しているから……)


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