美貌の御曹司は、薄幸の元令嬢を双子の天使ごと愛し抜く

田辺は元秋月工業の従業員であり陽一の親友だった人物で、職場では右腕的な存在として、桐生自動車に卸しているねじを陽一とともに開発し特許取得に貢献した人物だ。よく仕事おわりに家へ寄って陽一と酒を酌み交わしていたのを、おぼろげながら記憶している。

陽一が亡くなり、社長が健二に代わった途端に経営理念から逸れていったのに愛想を尽かして早々に退職したが、それでも萌とはずっと年賀状のやり取りだけは続けてくれていて、困ったことがあれば頼ってくれと毎年書き添えられていた。

現在は名古屋で会社を起こし、田辺ネジ製作所の社長を務めているらしい。それを思い出した萌は、迷惑を承知で彼に連絡を取った。

秋月工業の不正に気づいたこと、それを正すよう進言したが聞き入れてもらえなかったこと、悩んだ末に彼らを告発しようと考えていることなど、桐生家とのかかわりを除いてすべて話した。

すると事情を聞いた田辺は自分のところで働けばいいと快く萌を迎えてくれただけでなく、住む場所まで世話してくれた。

すぐに住民票を移し、閲覧制限をかけておくよう助言をくれたのも彼だ。田辺は健二や翔子を知っているため、彼らは不正を告発されればきっと萌を疑い、居場所を探そうと躍起になるかもしれないと考えた。そのため当初は一緒に暮らせばいいと言ってくれていて、田辺の妻である理恵や息子の康平も賛成していたのだ。

しかし事情が変わり、今は田辺が持っているアパートの一室を借りて生活している。


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