始まりは愛のない契約でしたが、パパになった御曹司の愛に双子ごと捕まりました

田辺ネジは敷地のほとんどがねじを製造する設備のある作業場で、その隣に事務所と給湯室があり、事務を務める社員だけでなく普段工場で働く作業員もここで休憩をとる。

萌が田辺から頼まれた買い出しから戻ると、給湯室兼休憩室で康平がコーヒーを飲んでいるところだった。

「お疲れ様」
「あぁ、お疲れ。どっか出てたのか?」
「うん。今日はお客さんが来るとかで、社長からお茶菓子を頼まれたの」

買ってきた老舗和菓子店の紙袋を掲げて見せると、康平は納得したように頷いた。

「そういえば親父が言ってたな。ったく、事前に自分で買っておけばいいのに」
「社長もお忙しいんだから仕方ないよ。でもお客さんなんて珍しいね」

康平は田辺のひとり息子で、父親に負けず劣らず優秀な技術者だ。大学ではアメフトをしていた彼は長身で体格がよく、萌と同い年だが貫禄がある。短髪に三白眼なため怖そうな印象を受け、初対面の時は穏やかな田辺とは真逆だと感じた。

しかし彼は田辺ネジを継ぐと公言しており、日々進歩しているボルト製造の技術を研究し、よりよいねじを作るために開発設計を行っている。職人気質でぶっきらぼうだが、突然転がり込んできた訳アリの萌に対して、嫌な顔ひとつせずに受け入れてくれた。

晴臣以外の男性に対して免疫のなかった萌は初めの頃は緊張していたものの、「タメなんだから敬語はいらない。さん付けも気持ちわりぃからやめてくれ」と言う康平と次第に打ち解けていき、今では昔なじみのような感覚で話せる貴重な存在だ。

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