美貌の御曹司は、薄幸の元令嬢を双子の天使ごと愛し抜く

「なんでも、東京からわざわざ出向いてくるって聞いた」
「東京から?」
「あぁ。うちと共同開発したいっていう話らしい」

田辺ネジは顧客のニーズに合わせて様々な形状を考案し、あらゆる分野に締結部品を供給している。名古屋のみならず東海地方ではかなりシェアを伸ばしているが、まさか東京の企業から声がかかるとは。さすが田辺の手腕には目を見張るものがある。それゆえ父は彼を頼りにしていたに違いないと、萌は感嘆のため息をついた。

「すごい。いい話だよね?」
「どうだろうな。あっちは大企業だし、技術だけ取られて下請けみたいになんのはごめんだけど」
「大企業?」
「桐生自動車。親父が昔世話になったことがあるらしくて、その伝手だろうな」

康平が口にした企業名に、萌は飛び上がるほど驚いた。言葉を失い、目を見開いたまま頭が真っ白になる。

締結部品を製造しているのだから、取引相手に自動車メーカーがあるのはおかしいことではない。けれどボルトを作っている工場は国内に数え切れないほどある。それなのに桐生自動車は萌のいる田辺ネジを見つけ、共同開発を申し込んできた。

単なる偶然とはいえ、そわそわと落ち着かない気分だ。

(でも私がかかわるわけじゃないし、ニューヨークにいる晴臣さんがここに来るわけでもない)

まさか再び桐生自動車との縁が繋がってしまうとは思ってもみなかったが、経理などの事務を担当している萌が直接関係することにはならないはずだ。

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