美貌の御曹司は、薄幸の元令嬢を双子の天使ごと愛し抜く

萌は無意識に胸元のネックレスに手を添えながら、再び首を横に振る。

「まさか。今は育児と仕事だけで手一杯だもん。そんな余裕ないだけだよ」

そう言うと、康平はなぜかホッとした表情を見せた。

「そうか。いつも言ってるけど、それならなおさらもっと俺に頼れよ。萌はすぐひとりでなんとかしようとするからな」
「十分頼らせてもらってるよ」
「先月、三人揃って季節外れのインフルエンザに罹ったくせに連絡してこなかったのは誰だよ」
「それはほら、だって移すわけにいかないから……」

出産直後のなにもかも慣れない中で頼りっきりになっていた頃とは違う。ひとりでもしっかりしなくてはと、高熱でフラフラになりながらも双子の看病を乗り切った。

「病院で薬もらってなんとかなったし、母親なんだからこのくらい自分ひとりでなんとかできないと」
「……そうやって頑張りすぎるから心配になるんだよ」
「え?」

康平の小さな呟きは萌の耳に届かず、聞き返したが彼は「なんでもねぇ」と言ってコーヒーを飲み干した。

「よし、今日終われば週末だ。もうひと踏ん張りするか」

そう言って休憩室を出て行った康平の背中を見送り、萌も応接室の準備をするためにその場をあとにした。


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