美貌の御曹司は、薄幸の元令嬢を双子の天使ごと愛し抜く
5.偶然か運命か《晴臣Side》

社長の息子である康平に守られながら去っていく萌を見て、晴臣は激しい嫉妬と胸の痛みを覚えた。

「息子が失礼しました。しかし桐生さん、うちの秋月とお知り合いですか?」

商談相手であった田辺社長だけでなく、晴臣の後ろに控えている秘書の小倉もまた驚いた顔をしている。

晴臣は焦がれて仕方がなかった女性が再びこの手をすり抜けていってしまった悔しさに唇を噛み締めたまま、ふたりが出て行った扉を睨みつけた。

萌に出会ったのは三年前。三十歳を迎える前には結婚してほしいという父の方針で臨んだ見合いの席だった。

大企業を継ぐ立場上いつまでも独身ではいられないと理解していたが、当時はニューヨークに新たな事業所を設立するために奔走しており、とても結婚など考えられなかった。

そもそも恋愛に対する関心が薄く、晴臣にとって優先順位が低い。

これまで女性と付き合った経験がないわけではないが、いずれも相手から告白をされて付き合い始め、誠実に交際していたつもりが「私のこと好きじゃないよね?」と言われて関係が終了する。

恋人の要望にはできる限り応えていたし、二股をしたこともない。そつなくこなしていたつもりだが、一方的に責められて相手が去っていっても寂しいとは感じなかった。きっと恋愛事に向いていないのだろう。

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