美貌の御曹司は、薄幸の元令嬢を双子の天使ごと愛し抜く

「俺と結婚しませんか?」

そう告げた理由の何割かは萌への同情心だ。

晴臣はいずれ見合いで結婚するつもりだったし、三十歳が近づくごとに結婚はまだかと聞かれることが多く煩わしかった。

仕事の都合もあり今はタイミングが悪いと思っていたけれど、見合い相手のあまりに悲惨な境遇を見て、あの環境から逃げ出す手助けをしてやりたいと感じたのだ。

彼女とならば愛や恋といった不確かな感情ではなく、互いのメリットのために協力し合う関係性を保てるのではないか。

打算的な考えで、女性に対してあまりにも非情な結婚の提案だと思わなかったわけではない。

けれど、あの家族から離れるために結婚という手段を使って家を出るのだと理解した瞬間、萌の瞳にたしかに希望が宿ったのを見た。

真っすぐで理知的な眼差しを持つ彼女を、もっと自由に羽ばたかせてやりたい。

そう強く感じた自分に驚きつつ、新鮮な気分でもあった。これまで女性に対し、興味を抱いたり執着したりした経験がない。

けれどたしかにその時、彼女を手放してはならないと本能が告げていたのだ。

職場に呼ばれて一旦萌と別れると、すぐに宏一に「この話を進めてほしい」と連絡をとった。

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