美貌の御曹司は、薄幸の元令嬢を双子の天使ごと愛し抜く

(突然萌が別れを切り出したのは、このためだったんじゃないか……?)

彼女はなにかのきっかけで秋月工業が脱税をしている事実を知り、桐生自動車への影響を懸念したのではないだろうか。

萌は秋月工業で働いていたわけではないが、休日に何度も事務仕事を手伝わされたことがあると言っていた。晴臣の知らないところで呼び出され、実家の不正を知り、晴臣や取引のある桐生自動車に迷惑を掛けまいとして身を引こうと考えたのだとしたら……。

優しく聡明な萌ならば、自分よりも他人のために行動する彼女ならば、あり得る話だと思った。

しかし真相を聞こうにも彼女は連絡先を変えてしまっているため、今どこにいるのかもわからない。秋月社長が知っているとは考えにくく、以前の職場は退職済みだった。

いっそ興信所を使って居場所を探そうかと考えていた時に奇跡的に再会を果たし、運命は晴臣に味方したのだと感じた。

(どうしても、萌と話がしたい)

商談を終えると、周囲を気にする余裕もなく、事務所で見つけた萌に声をかけた。

咄嗟に萌の薬指に視線をすべらせたが、指輪はしていなかった。それどころか、萌は晴臣が三年前に贈った四つ葉のネックレスをしていた。自分の考えが正しいのではという希望で気が逸り、居ても立っても居られない。

しかし、晴臣の視線から逃れるように康平の背中に守られていた萌は苦しげな表情をしていた。彼女が自分との再会を喜んでいないのはあきらかで、迷惑だと感じているのだろうかと不安が押し寄せる。

< 141 / 268 >

この作品をシェア

pagetop