美貌の御曹司は、薄幸の元令嬢を双子の天使ごと愛し抜く

萌が実家の不正に気付き身を引いたというのは、晴臣の願望とも言える推測だ。実際は本当に晴臣のそばから離れ、ひとりで生活を立て直したかったのかもしれない。

今も三年前と変わらず萌を思い続けていると知れば、執念深いと怖がらせてしまうだろうか。

「副社長?」

三年前に飛びかけていた晴臣の意識が、小倉の耳打ちによって戻る。

萌がなぜ東京から遠く離れた名古屋で働いているのか正確なところは不明だが、田辺は過去に秋月工業に勤めており、当時の社長であった陽一とは友人関係だったと聞いている。その縁でここにいるのかもしれない。

「失礼しました。彼女の父上の秋月陽一さんに私の父がお世話になっていた縁で、三年前に見合いをしたんです」
「萌ちゃんと見合いを……?」

田辺は萌と晴臣の縁談について初耳だったようで、ひどく驚いた様子で目を見開いている。

萌が話していないだろうとわかっていたのに口にしたのは、彼女の肩を抱いて去っていった田辺の息子だという男に危機感を覚えたからだ。

ひと目見ただけで彼は間違いなく萌に好意を抱いているとわかったし、社長である田辺が咄嗟に彼女を「萌ちゃん」と呼んだことからしても、仕事の付き合い以上に親密なのではないかと焦りが滲んだ。

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