美貌の御曹司は、薄幸の元令嬢を双子の天使ごと愛し抜く

もしかしたら萌はすでに彼と交際していて、家族ぐるみの付き合いをしているのではないか。

そんな疑念が湧き、牽制するように見合いをしたと話したが、田辺は神妙な顔つきで「そうでしたか」と納得したように頷き、それ以上詳細を尋ねてはこなかった。

彼の表情に引っかかりを覚えたものの、商談相手にこれ以上プライベートな話題を引きずるわけにもいかない。

晴臣は気を引き締め直して田辺に向かい直った。

「では田辺社長、また来週伺います」
「わざわざ来てくださったのに、すぐにいいお返事ができず申し訳ない」
「いえ。ねじや小さな部品ひとつひとつの品質がお客様の命を守るんですから。慎重になるのは当然です」

田辺ネジを知ったのは、晴臣が帰国した直後だった。

新しい車種を開発するにあたり、現在桐生自動車で使用している部品を一から見直していた晴臣は、ねじを今以上に軽くて丈夫なものにできないかと考えた。

車は一台あたり約三万点の部品から成り立っており、そのうちねじは二千本以上。ねじなくして車は製造できないと言える。人の命を乗せて走る自動車だからこそ、強度と靭性を兼ね合わせたねじが必要だ。

どんなに小さな工場でもいい。強靭かつ軽量で、なおかつ緩みにくく摩耗しにくい。そんなねじの開発に取り組む企業を探し、辿り着いたのが田辺ネジだった。

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