美貌の御曹司は、薄幸の元令嬢を双子の天使ごと愛し抜く

現在田辺ネジが特許を申請中の部品を調べてみると、秋月工業が桐生自動車と取引をしていたねじをさらに改良したような優れたねじで、晴臣が理想とするものに近い。

田辺は以前は秋月工業に勤めており、中でも開発設計の中心的人物として活躍していたようだ。職人としての腕は間違いないだろう。

晴臣はすぐに自社の開発部との共同開発の話を持ちかけた。

田辺は詳しい話を聞く前から桐生自動車と自社の規模の違いに難色を示していたが、誠意を見せるため東京から名古屋にある工場まで足を運び、実際に開発したいねじについて意見を交わすところまで漕ぎつけた。

あまりにチャレンジングな要望で品質が担保できないと今日は首を縦には振ってくれなかったが、そこは何度もディスカッションして理想のねじと品質が両立できるよう調整していくだけだ。

「『ねじはすべてのものづくりの根幹』ですから」

萌が両親の命日に彼らの墓前で教えてくれた、秋月工業の前社長の言葉だ。

『父は酔っ払うと、よく『ねじはすべてのものづくりの根幹だ』って従業員の人たちと熱く語ってました。地味だけど、なくてはならない仕事だから誇りを持ってるんだって』

そう伝えると、田辺はハッとした表情で晴臣を見つめたあと、懐かしそうに目を細めた。

< 144 / 268 >

この作品をシェア

pagetop