美貌の御曹司は、薄幸の元令嬢を双子の天使ごと愛し抜く

「秋月の口癖でした。萌ちゃん、覚えていたんだなぁ」
「……萌は、いつからこちらに?」

つい堪えきれずに尋ねてしまったが、田辺は嫌な顔をすることなく、萌を思う優しい瞳のまま晴臣に微笑んだ。

「三年前かな。東京で色々あったようで、僕を頼って来てくれたんです」
「あの、萌は――」
「なにか事情があるようだけど、あとは僕じゃなく萌ちゃん本人と話した方がいい」

田辺は、さらに質問を重ねようとした晴臣の言葉を遮った。

当然の言い分ではあるが、萌の先ほどの様子では話をしようにも難しそうだ。それに彼女を連れ去っていったのは、他でもない田辺の息子である。

その思いが顔に出ていたのか、田辺は晴臣の表情を見ると肩を竦めて苦笑した。

「僕はもちろん、息子の康平も彼女を大切に思っているんです。なにしろこの三年間、家族のように過ごしてきましたから。無理強いは困りますが、彼女は話をしたいと切望する相手をいつまでも無視できるような子じゃないでしょう」

晴臣が萌と過ごしたのはたった三ヶ月ほど。それでも有無を言わさず晴臣を拒絶するような真似はしないと思えるのは、人を思いやるあたたかい優しさを持っている女性だと知っているからだ。

田辺に「来週、お待ちしていますね」と見送られ、晴臣は小倉が事前に呼んでいたタクシーに乗り込んだ。

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