美貌の御曹司は、薄幸の元令嬢を双子の天使ごと愛し抜く

ゆっくり車が発進すると、晴臣よりも先に隣に座る小倉から「はぁぁぁ」とため息とも感嘆ともとれない声が漏れた。

「……なんですか」
「あの女性が、副社長が毎回見合い話を断るたびに言う『心に決めた女性』ですか。てっきり穏便に断る方便だと思ってました」

興味津々といった感情を隠さず話す小倉は、今年三十六歳になる秘書室の室長。

先月帰国してすぐに副社長に就任した晴臣についた専属秘書で、晴臣の多忙なスケジュール管理や慶弔業務などはもちろん、各部署との調整や資料の作成など多岐にわたる業務をこなしている。

まだ一緒に仕事を始めて一ヶ月ほどだが、晴臣が仕事をしやすいようにすべて整えてあり、一言えば十理解して動く。短期間でもかなり有能な男だと知れた。

「何人もの女性を泣かせてきた副社長が、まさか見合い相手に逃げられていたなんて……」
「語弊のある言い方をしないでください。俺は誰も泣かせていません」
「逃げられはしたんですね」

今日見られていた場面はもちろん、三年前についても否定できないのが悔しい。

小倉の〝桐生自動車の御曹司〟に対して媚び諂いをしない人柄や、遠慮のない物言いをするところは気に入っているが、さすがにプライベートに踏み込みすぎた軽口にジロリと睨みつける。

しかし彼は晴臣の視線など物ともせずに可笑しそうに続けた。

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