美貌の御曹司は、薄幸の元令嬢を双子の天使ごと愛し抜く

「それで? 東京に戻るのか?」
「ううん。まだ、なにも……」

晴臣は結婚を前提にやり直したいと言ってくれたが、萌はいまだに返事ができずにいる。

叔父一家が本当に晴臣に迷惑を掛けないかも心配だし、晴臣とやり直すとなればきっとここを離れることになる。お世話になった田辺たちに何の恩返しもできないまま離れるのは心苦しいし、なにより今は自分の気持ち以上に双子の気持ちや環境を優先したい。

そんな萌の心情を察したのか、康平が両手を後頭部で組み、あっけらかんとした声で言った。

「新しい環境に慣れるのは、大人よりも子供の方が早いと思うぞ。それから、会社とか俺たちのことは気にしないで萌がしたいようにすればいい。親父とおふくろも、萌が幸せになってくれる方が嬉しいに決まってる。もちろん……俺も」

照れくさそうに付け足す康平の耳がほんのり赤い。

身長も高く体格のいい彼は基本的に寡黙なタイプで、初対面の時は怖くて目もほとんど合わせられなかった。

しかしぶっきらぼうな優しさに、萌は何度も救われてきた。

「ありがとう。私はひとりっ子だけど、お兄ちゃんがいたらこんな感じなのかな」
「……なんでだよ、同い年だろ」
「だってやっぱり康平くんの方がしっかりしてるから」

そう言うと、康平は目を細めて笑った。

< 182 / 268 >

この作品をシェア

pagetop