美貌の御曹司は、薄幸の元令嬢を双子の天使ごと愛し抜く

さらに晴臣は終始穏やかで優しく紳士だった。ドアを開けたり荷物を持ってくれたりするのはごく当たり前といった様子で、レストランで椅子を引いてくれた時には、日本にもこんな王子様みたいな人が本当にいるのだと妙な感想を抱いた。

食事をしながら改めてこれまでの生活の様子を聞かれ、萌は躊躇いながらも両親の死後どんな生活を送っていたかを話す。

引き取られた直後から家事はすべて萌がしなくてはならなかったことや、大学進学は許されず就職したものの、帰宅後や休日に家業の事務の手伝いを無償でさせられていたこと。

誰にも頼れず、ひとり暮らしに踏み出せなかった経緯なども正直に告げた。

「元々両親と叔父夫婦の仲がよくなかったせいか、私を引き取ったのは会社や遺産目当てだと直接言われましたし、初めから疎まれているのはわかっていたんです」

萌の父が社長の頃は人手も多く会社は安定していたが、ここ最近は工場の経営が思わしくなさそうで、従業員の離職率も高い。それにも関わらず、叔母や玲香は贅沢をしている。

どこからそんなお金が出ているのか萌は不思議で仕方がないが、それは取引相手である晴臣に告げるべき話ではないため口を噤んだ。

晴臣はずっと険しい表情をしていたが、萌の話を最後まで聞き終えると「ひとりでよく頑張ったな」とサラサラになった髪を撫でてくれた。

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