美貌の御曹司は、薄幸の元令嬢を双子の天使ごと愛し抜く

秋月工業は社歴は浅いながらも、陽一の元に優秀な開発者や職人が集まり業績を伸ばしていた。桐生自動車のような車輌関連だけでなく、ロボットなどの産業機器、建設資材など様々な分野へ締結部品を卸しており、いずれも相手のニーズを聞き、ものづくりを支えるのだと日夜研究開発に励んでいた。

そんな熱い彼らを見て、いずれ父の仕事の手伝いをしたいと思っていたのに、事故で帰らぬ人となってしまった。

会社は叔父があとを継ぐことになり、実家も彼らの手に渡った。既に原形がわからないほどに改修されており、今の家は萌にとって両親と過ごした思い出の場所ではなくなった。

さらに高校を卒業するタイミングで萌にも家業を手伝えと言ってきたが、守銭奴の健二が自分に給料を払うとは思えない。悩んだ末、家に生活費を入れるのを条件になんとか外に働きに出る許可を取り付けたが、父が大切にしていた秋月工業に入社し、会社を守るべきではなかったかと今も葛藤している。

製品の品質向上よりもコストカットや利益ばかり追い求める叔父の経営にはついていけないと、多くの優秀な人材が秋月工業を去った。そのため品質は低下する一方で、大きな取引先を多数失い、業績は芳しくない。

「父が誇りに思っていた会社がどんどん変わっていってしまうのを、私は見ていることしかできなくて……」

今の秋月工業には陽一がいた頃の輝きがない。重要な顧客である桐生自動車と取引があるからこそ成り立っているが、それもいつまでもつのかわからない。しかし社員ではない萌にはどうすることもできない。

肩を落とす萌に、晴臣は首を振った。

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