美貌の御曹司は、薄幸の元令嬢を双子の天使ごと愛し抜く
1.虐げられる日々に決別を

今から三年前。桜の散りきった四月中旬の土曜日。

初めて踏み入れた一流高級ホテル『アナスタシア』の地下一階、老舗の日本料理店『なでしこ』の個室で、萌は俯いたままひと言も口を利かずに身を小さくしていた。

紫綬褒章を賜ったほどの料理人が長を務め、芸能人や財界の要人などがこぞって利用するこの店内には、和楽器で演奏されたジャズが上品な音量で流れている。

普段はカットソーにパンツスタイルばかりの萌だが、今日は薄いラベンダー色のワンピースを身に着けていた。

七分袖から出た手首やレースで飾られたデコルテは少し力を加えれば折れてしまいそうなほど細く、ウエストが絞られたデザインであるにもかかわらず身体のラインを拾わないほどだ。痩せているというよりも、やつれているといった方が正しい。

量販店で購入した安物なため生地はぺらぺらで、とてもこの場に相応しい装いとは言い難い。

しかし、それよりも居たたまれないのは、鏡を見るのも躊躇われるほど酷い自分の髪の毛だ。

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