美貌の御曹司は、薄幸の元令嬢を双子の天使ごと愛し抜く

(これは泣いてしまった私を慰めてくれているだけ。きっと子供をあやすのと同じ)

一緒に住み始めて二週間が過ぎても、萌と晴臣の間にはなにもない。同じベッドで眠っているにもかかわらず、手すら繋がない。最近では「君は先に眠っていて」と、ベッドに入るタイミングすら合わない有り様だ。

容姿も地味で貧相なほど痩せている萌相手では、そういう気分になれないということだろう。

だからこそ、この抱擁に特別な意味なんてないとわかっている。けれど抱きしめられているのは事実で、勝手に胸が高鳴り、ずっとこのままでいたいと願ってしまう。

(あったかい……)

萌は夢見心地で瞳を閉じ、無意識に彼の胸に頬を擦り寄せる。晴臣からは最近嗅ぎ慣れた、自分と同じ柔軟剤のにおいがする。そのことに不思議なほどに安心感を覚えた。

すると、すぐ上で晴臣が息をのんだ気配がする。自分がなにをしたのかに気付き、萌は慌てて彼の腕の中から飛び退いた。

「すっすみません、泣いたりなんかして。もう大丈夫です」
「あ、あぁ、うん。それならよかった」

唐突に距離を取った萌に驚いたのか、彼は一瞬呆然とした顔をしていた。

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