前世の約束〜神の目を持つ敏腕社長は、純白オーラの秘書を慈しむ
1週間考えて出した答えを、掛井さんに報告した。
「掛井さん。私はここで培った力を、このまま続けたいと思っています。大変お世話になり、ありがとうございました」
退職届を机の上に出すと、掛井さんは肩を落とすように、ため息をついた。

「僕が全力で支える。それでもダメかな?」
「私をここまで育ててくれた掛井さんには、感謝しています。でも…すみません」
「そうか…凄く残念だよ。実は、各リーダーは、明日から引き継ぎで、ゆっくり話をする時間は、もう無いと思う。それでね」

掛井さんが何か言いかけた時、
「掛井リーダー!明日からの件で、Web会議を始めるよ」
慌ただしく、グループリーダーが声を掛けて来た。
「分かりました!直ぐ行きます!星部さん、ごめんね。もし時間があれば、その時に」
掛井さんは、私の退職届と机の上の書類を持って、慌てて部屋を出て行った。

今の状況は、リーダーの人達の方が大変だと思う。
特に掛井さんは、管理業務を全部網羅しているから、スタッフへの説明と引き継ぎで、席にいることが無い。
結局、その日から退職するまで、掛井さんと話の続きをすることは無かった。

私も気持ちを切り替えて、前に進まないと。
その日に転職エージェント会社に登録し、1月に入ると、何社か書類選考を通過した。

有休を使って、面接に訪れた会社は『宇河ホールディングス(宇河HD)』。
総合商社として、不動産、建設業、製造業、飲食業、インフラ関連、その他にも様々な事業を展開する大企業だ。

管理業務の求人を検索したら、トップに出て来て、私には縁のない会社だと思って、1度はスルーしたけど…
何社か候補を挙げた時、ふと、宇河HDの事が頭に過った。

どんな人が合格するんだろう…
きっと、世で言うエリートって人だよね…
私が合格なんてあり得ないか…

でも…管理部門の求人をしてるなら、応募するのは自由だし、こんな機会、もう2度と無いよね…
うん、応募するだけでもいい経験だ!

そんな思いで応募したら、書類選考通過の連絡が来て、夢心地のまま、今、宇河HDの自社ビルの前に立っている。
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